長い21世紀とは何か
世界経済の大潮流 経済学の常識をくつがえす資本主義の大転換 (atプラス叢書)
- 作者: 水野和夫
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2012/04/21
- メディア: 単行本
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■利子率革命
2%以下の超低金利が長期間続く状態になると「利子率革命」と呼ばれる現象が起こると水野氏は指摘する。このような状態は人類史上3回しかない。1回目が、アウグストゥス帝政時代のローマ。2回目が16世紀初頭のイタリア、そして3回目が、1997年以降の日本だ。利子率革命が意味するところは、大きな歴史の断絶である。ケインズはこの状態になると社会変革が起こり利子生活者は安楽死すると、つまり資本家の時代は終わると予見した。しかし、現実は違った。金融工学が発達し、金融派生商品(デリバティブ)が生まれ、サイバー経済という空間が生まれた。これはアメリカの錬金術だと水野氏は言う。リーマンショック後も、この怪物は生き続けている。
■没落する中産階級
グローバル化で起こっていることは、新興国と先進国の平均化だ。新興国では生活は向上し、先進国の生活は悪化する。そして、サイバー経済の時代では主役だった労働力は、その座を資本に譲った。いまや、資本、国家、国民の利害の一致などあり得ない。国家もまた、ご存じの通り資本の使用人になっている。賢明な若者が夢を見ないのと同じく、賢明な中産階級は今より良い明日など無いと知るべきだろう。
■デフレ脱却には円高
水野氏の、日本の現在のデフレに対する処方箋は単純明快だ。日銀が金利を上げて円高にし、石油を安く買えるようにすれば良いと言う。しかし、国際政治の力学が働くだろうから実現性には疑問符がつく。本当に強い日本になれない事情については、ここに書くまでもあるまい。(アメリカの傘の下の国ということ)
■脱成長と定常化社会
成長という目標は、経済活動に秩序とエネルギーを与える装置だと言える。脱成長は、それに替わる理念ではなく、ただの否定形だ。水野氏は見田氏の影響からか定常化社会という結論に至るのだが、言葉はともかく、なかなかイメージできない姿だとも思う。それよりも悪化する生活の中で切り捨てられそうなマイノリティを救う思想が欲しい。それは「観念ではない、近くの他者への寛容」だ。リベラリストの最大の敵が不寛容であることは言うまでもない。
現在進行中の資本主義の歴史的大変革は長く続く。2012年の今、新しいシステムの姿を経験する人はいないだろう。いずれにしても、過去の常識や価値観が崩壊中であることは間違いない。そういうものに惑わされたり、しがみついたりすることなく、それぞれが確固たる姿勢を持って行動することが重要だろう。