白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

日本文化の論点

日本文化の論点 (ちくま新書)

日本文化の論点 (ちくま新書)

日本の論壇をリードする宇野常寛氏の最新刊だ。
今、日本には二つの世界がある。大企業やマスメディアによる<昼の世界>と、オタクやインターネットによる<夜の世界>だ。昼の世界は衰退し機能不全に陥る一方で、夜の世界はガラパゴス的、文化的に花が開いている。この不意義な現象がインターネットというテクノロジーによって生じている。宇野氏は日本の未来を夜の世界から生まれる想像力の中にあると見る。その洞察は実に深い。
私自身、新しいものには一通り手を出して来た。(私は52歳)ブログはもちろん、UstreamtwitterfacebookSKypeYoutube。去年はニコ生の放送も何十回とやった。特にニコ生は画期的だった。放送には色々なソフトを使うのだが、分からないと若者が親切に教えてくれる。そして距離も年齢も関係なく、すぐに友達が出来る。私は青森に住む大学生と放送で出会ったが、そのコミュニティのメンバーは日本各地にいる。もちろん会ったことはない。それでも深夜にニコ生とSKYPEの両方でつながりながら、まるで一緒に居酒屋で飲んでいるような雰囲気で語り合う。これは私にとって画期的な体験だった。
本書では、なるほどという箇所がいくつも登場するが、次の文章には大きく頷いた。

オタクたちの「日常」の交流の場はすでにインターネットの場に移動しており、現実の空間に求められるのは「祝祭」の場でしかない。

オタクの定義は知らないが、オタクを若者に置き換えても良いのではないかと思われる明快な分析だ。
このほか、音楽コンテンツや二次創作、ゲームフィケーション、戦後政治などについても縦横に語られて行く。失礼な言い方かもしれないが、軽く新書1冊を書ける人なのだと思う。ふーふー言いながら書いたダメな新書とはレベルが違い過ぎる。
終章は「<夜の世界>から<昼の世界>を変えていくために」だ。ここでは政治と文学の意味を問い直したうえで、政治思想を四つの象限に分ける。
1.第1象限 構造改革+アンリベラル
2.第2象限 構造改革+リベラル
3.第3象限 体制保存+リベラル
4、第4象限 体制保存+アンリベラル
宇野氏は都市部の新しいホワイトカラー層を結集して、第2象限的なリベラルの勢力を強化したいと考えているようだ。ただ、詳しくは書かれていないが、それは新しいリベラルであって、ユートピア的なものではないのだろう。
ますます、宇野氏の言動から目が離せない。