白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

内実とリアルのギャップ

アーキテクチャの生態系

アーキテクチャの生態系

テレコム社会科学賞を受賞した濱野智史氏による本作は、2008年10月が初版第1刷だ。ちょうど「ニコニコ動画」の誕生までの日本のwebを社会学的に考察した本であり、ソーシャルメディアを語る上では読んでいなければならない本だろう。
アーキテクチャとは、webのブログとSNS(ソーシャルウエア)の構造のことだ。グーグルや2ちゃんねるはてなダイアリーミクシィ、ユーチューブ、ニコニコ動画などを、生態系として捉えて整理したことが、本書の最大の功績である。今なら、アメブロツイッターフェイスブックニコニコ生放送を追加しなければいけないところだが。
思えば、私がはじめてミクシィに日記を書いたのが2005年だった。その当時の驚きは今も忘れない。イタロ・カルヴィーノの研究家と出会ったり、ガタリドゥルーズについて語り合う仲間ができたり、リアル知り合いの美人主婦が深夜の2時、3時に足あとを残して行ったり、これはコミュニケーションの革命だと思った。もっとも、そのミクシィも仕様変更などから当時のディープなメンバーは去り、今は第2世代、第3世代になった感がある。
ソーシャルメディアを利用する上で一番大事なことは立ち位置を明確にすること。趣味の仲間との交流に使うのか、ビジネス用なのか、市民として社会派の発言をするのか。この3つは切り分けておくことが望ましい。(有名人の場合は別である)何のためのSNSなのかを考えて使い分けること。これが一番重要であり、そのためには各SNSやブログの特性を知っておく必要がある。フェイスブックを会社から強制されて使用している人はお気の毒だが、それはもはや業務と割り切るしかないのだ。(笑)
ソーシャルメディアが第4の波と言われていることについては前にも書いた。権力の構造が劇的に変わるとか、弱いつながりが大切になるとか、さまざまな事が言われているがどうだろうか。
ただ一つ私に言えることは、生態系のクラスターがどんどんと増殖し、不思議な仲間意識の磁場が次々と生まれるということだ。今いるリアルの私の居場所(たとえば会社員、OL、学生)よりも、もっと居心地の良いクラスターがあるということをソーシャルメディアは教えてくれる。それが良いのか悪いのかは問わないでおこう。ソーシャルゲームで仲間が出来て中毒になって大学を中退する人もいる。欺瞞に満ちた社会に嫌気がさして会社を辞める人もいる。安易な企業コンサルタントにそそのかされる人もいる。ソーシャルメディアの中には新しい人間模様がある。ニコニコ生放送などは、ほとんど空間を超えて誰かの家に遊びに行っているような友達感覚だ。
もはやSNSのシェアを云々言う時代ではないだろう。ただの、マーケティングプラットフォームであるフェイスブックを私は楽しいとは思わない。各人が、好みのSNS、好みのブログを利用すればそれで良いのだ。
濱野氏は本書でSNS間の連携機能を否定していたが、現実にこの機能を利用しているのはビジネス目的のユーザだけだろう。いわゆる痛い人々だ。もっともニコ生をやっているというだけで「痛い」と言われたこともあるので、何がどう痛いのかは良くわからない。
なお、あるニートに言わせると「一生懸命働いているサラリーマンが一番痛い」らしい。