白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

フリーエージェント社会の到来

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

筆者ダニエル・ピンクは、クリントン政権時代にライシュ労働長官のもとでスピーチ・ライターをしていた人物である。なぜ、その仕事をやめてフリーエージェントになったのか。本書には、その経緯も詳細に綴られている。
さて、本書でいうフリーエージェントとは、以下のような人たちのことだ。
 1.フリーランス (推定1650万人/アメリカ、2000年。p.46参照)
 2.臨時社員   (推定350万人/同上)
 3.ミニ起業家  (推定1300万人/同上)
   ・・・合計3300万人、アメリカの労働人口の約4分の1.
フリーランスとミニ起業家はともかく、なぜ臨時社員が含まれるのか。多くの臨時社員は低賃金だが、一部には高い技術や能力を持った高給の臨時社員や臨時の経営幹部もアメリカには少なくない。最上級の場合、彼らの日給は5000ドルに達する場合もあると言う。本書では、フリーエージェントという概念が、いわゆる組織人との対比で用いられている。それは、単に労働人口の構成比の変化を意味するものではない。そこにあるのは、労働倫理の変化、人生観の変化、社会システムの変化だ。それはそのまま、従来の価値観や制度との衝突を意味する。
本書は、第1部、第2部でフリーエージェントのライフスタイルを紹介する。第3部は、フリーエージェントとして生きるための基本的な原則として読むことが出来るだろう。第4部「フリーエージェントを妨げるもの」は、アメリカの制度上の問題であり、日本では概ね該当しない。第5部は未来予想だ。中でも第19章の「ビジネス、キャリア、コミュニティの未来像」は分かりやすく、必読と言えよう。
さて、本書を経済学に分類したことには意味がある。産業革命以降に生まれた「雇用」という形態がフリーエージェントの台頭によって脅かされているということだ。雇用の維持や創出は本当に必要なのか。それは一つの価値観を正義と錯覚しているだけではないのか。重要なのは、雇用ではなく仕事なのだ。雇用が減っても、フリーエージェントが増えれば失業率は減る。ピンクの予想はこうだ。将来は超巨大企業とナノコープに二極化し中間サイズの企業は淘汰されて行くだろう。

ナノコープ(Nanocorp)「拡大を目指さない」という方針を容赦ないまでに追及している超ミニ企業。小規模のままでいることは、オーナーの個人的な志向でもあり、競争力を得るための戦略でもある。(p.50)

マズロートクヴィルの言葉が数多く引用されているのも印象的だ。豊かな社会にあっては、人はお金のためだけでは働かない。働くことの意味を追求しはじめたと言うことだ。
特に印象的だったのは、フリーエージェントでは、人脈は質より量であり、強い絆より弱い絆が重要になってくるという点だ。縦のつながりではなく、横のつながりで動く世界。従来の組織社会とは異なる原則が、そこにはある。
2002年(アメリカでは2000年)の本を今頃、と思われるかもしれないが、本書はこれからの時代を生きなくてはいけない人に多くの示唆を与えてくれることだろう。