白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

理解の秘密

理解の秘密―マジカル・インストラクション (BOOKS IN・FORM Special)

理解の秘密―マジカル・インストラクション (BOOKS IN・FORM Special)

インストラクションとコミュニケーション。ビジネスを行う上で、あるいは日常を生きる上で、何と重要なテーマだろうか。きっと、こういう本を書くのは心理学者に違いないと思われるかもしれない。しかし、筆者のリチャード・ソウル・ワーマンはペンシルバニア大学で建築学修士号を取得し、同大学を1959年に最優秀で卒業した人物だ。また、自らを「情報建築家」と名乗り、1990年には「情報選択の時代」というベストセラーをものにしている。本書の監訳者は松岡正剛氏。氏によると「インストラクションとは、命令や指示ではなく説明だ」ということになる。
本書の内容は実に盛り沢山だ。実に広く深い内容を扱っており、すべてを理解し、記憶し、活用すること難しいだろう。マネージャーや、コミュニケーションに携わる人にとっては、辞書のように傍に置いておきたくなるような、そんな本だと思う。簡単に目次を追ってみる。

 第1章 伝わらない人生 −あなたは理解されていますか?
 第2章 インストラクション入門 −コミュニケーションの核心がここにある
 第3章 コミュニケーションとしての仕事 −インストラクションの働きをさぐる
 第4章 「言ったじゃないか!」「そうでしたっけ?} −インストラクションの送り手・受け手
 第5章 パーソナリティ以外の壁 −コミュニケーションを阻害するもの
 第6章 なぜインストラクションに従えないのか −トラブルには原因がある
 第7章 インストラクション・マネージメント −ハードルを越える方法
 第8章 理解へ向かう道がある −インストラクションのレシピ
 第9章 方法はいくつもある −多彩に多様にさらに深く
 第10章 これがディストラクションだ −コミュニケーションを破壊するもの
 第11章 「機械についていけない」症候群 −喜劇のような悲劇が起きている
 第12章 マニュアルはどこから来るのか −その発生と問題と対策
 第13章 忘れがたいインストラクション −インストラクションの達人とは
 第14章 エンパワーメントが組織を生かす −責任と権限と想像力
 第15章 新しいリーダー像 −コントローラーVSコンダクター
 第16章 カンニング・ペーパー −インストラクション虎の巻

ここでは、ディストラクション(破壊的説明)について少し書いておく。本書では、「受け手の対応について」、「インストラクションの欠陥とはどのようなものか」、「翻訳不足とはどのようなことか」、「抽象的なら聞き返せ」、「情報過多という問題」・・・等が指摘される。マネーシャーあるいは、マニュアル等を執筆するテクニカル・ライターには必読の部分である。
筆者は言う。「インストラクションは生活の基本要素であり、コミュニケーションを推進する役目をはたす」と。はあ。確かに技術系の分野であればそうかもしれない。しかし、現実の生活の中では、コミュニケーションの促進が本当に望ましいのだろうか、と考えさせられることもしばしばだ。人間関係のトラブルを喜んで話題にするような人は、決して少なくはないし、自らトラブルに巻き込まれるのを好む人もいるという。私だって、うんざりさせらる場面というのがある。(もっとも、うんざりさせていることもあるかもしれないが・・・)そう言えば昔、ある上司が私にこう言った。接触なければトラブルなし」
困難な状況においては「撤退」が最善の選択である場合もあるが、撤退できない場合もあるだろう。そのような状況を切り抜けるには「コミュニケーション能力」が重要になってくる。本書は、その磨き方についての本だ。コンテクストの使い方を身に着けること。メッセージの形式ではなく、内容に注目すること。抽象的概念を具体的描写に移しかえること。メッセージをストレートに伝えること。誤解をただす質問能力を鍛えること。聞く能力。感情的にならない能力。などなどだ。そして、これらの能力を磨く第一歩は、自らのインストラクションのスタイルを認識することにあると筆者は言う。
そうは言っても、逃げられる無駄なコミュニケ−ションからは逃げるのが正解に違いない。(笑)