白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

コミュニケーションをデザインするための本

コミュニケーションをデザインするための本 (電通選書)

コミュニケーションをデザインするための本 (電通選書)

電通は今、広告代理業を行っていない。と言うと驚かれるだろうか。電通では自らの事業領域を「トータル・コミュニケーション・サービス」と定義しているのだ。ここで鍵となるのが「コミュニケーション・デザイン」という概念である。
本書の第3章(p.166)では、このコミュニケーション・デザインのプランニング・プロセスが図で示されている。出発点は、ソーシャル・インサイトとクライアント・インサイト。そこから、ゴールのデザインとターゲティングを明確化する。そして、ターゲット・インサイト、キー、アイディアへと繋がり、あとは、メディアとクリエイティブ以降の、Plan−Do−Seeのサイクルとなる。
なぜ、広告代理業では無くなったのか。それには以下の三つの変化があると言う。
 1.メディア環境の変化
 2.生活者行動の変化
 3.広告コミュニケーションの変化
が、それである。
本書は、半分以上のページを、第2章の7つの事例紹介に割いている。それぞれの事例を読むだけでも学ぶところが多い。フランク・ミュラーの事例では、「つくった接点を大切にする」ということの重要性が書かれている。これなどは、マーケティングだけでなく、日常生活の中でも言えることだろう。また、「漢検DS]のプロモーション・キャンペーンでは、いかにして「バイラル(感染)」を起こしたかについての仕掛けが書かれている。要はエンターテイメント性を加えただけなのだが、それが決め手であり、凄いのだ。
コミュニケーション・デザインで重要となる意識は以下の3つだ。(P.182)
 1.Natural
 2.Simple
 3.Faithful

これもまた、日常生活の中でも言えることだろう。
筆者は広告人であるだけでなく、メディア研究者でもあるという。故に、生命という視点から情報を考え、オートポイエシスにまで言及している。そしてまた、ソーシャル・デザインに取り組みたいと言う。(宮台真司さんもソーシャル・デザイナーを自称している。)
しかし、私は「ソーシャル・デザイン」には否定的なのだ。どうも、「ソーシャル・デザイン」という言葉は、上からの緩やかな強制という感じがするからだ。
電通は、「トータル・コミュニケーション・サービス」を謳っているが、クライアントと消費者が対話的になることの必要性だけではなく、両者が対等でなければ無理な時代にあることをどこまで認識しているのだろうか。いま、消費者の中にマーケティングリテラシーが芽生えている。そしてこれは今後、大きな広がりを見せるであろう。ソーシャル・デザインは意図して出来るものではない。そうではなく、ソフト・ハード両面での、ソーシャル・プラットフォームこそが重要なのだ。そして、新しいプラットフォームから何が生まれるのかは誰にも分からない。ただ、そこにあるのは、生産者と消費者のコラボレーションだと言えそうだ。ベータ版文化が定着しつつあるのも、その一例と言えるだろう。