白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

14歳からの社会学

14歳からの社会学 ―これからの社会を生きる君に

14歳からの社会学 ―これからの社会を生きる君に

宮台真司さん。改めて紹介するまでもない有名な社会学の先生だ。卓越主義的リベラリズムを標榜し、自らを「ソーシャル・デザイナー(社会設計家)」と名乗っておられる。社会設計。そんな事が可能だとは思えないのだが、宮台さんが「終わりなき日常を生きろ」以降、メッセージ性の強い発言をされていることは事実である。
本書の要点の一つは、現代という時代に対する認識である。昔(昭和30年代)は「みんな仲よし」が通用する時代だった。しかし、今は違う。そして、もう元には戻らないのだと宮台さんは語る。今の社会には、共通前提、共通感覚が無くなったのだ。確かにそうだろう。この認識に異議はない。
そして、現代においては「試行錯誤→承認(他者が認めること)→尊厳→試行錯誤」というサイクルが回りにくくなったのだと指摘する。本書では、尊厳のことを「失敗しても大丈夫」と表現しているが、これは「なんとかなるという感覚」に似たものだろう。さて、なぜ尊厳が獲得しにくくなったかと言うと、そこには、「みんなという他者」がいなくなったからだ。そうすると、意味のある他者を見つけ、そこから承認を得るという体験が希薄になるというわけだ。学歴や地位は、もはや役に立たないと、宮台さんは主張する。本当だろうか?
そして、尊厳を獲得すること、つまり承認されるという体験を積み重ねろというメッセージが繰り出される。これは、ある意味では正しい。さらには、勉強ばかりせず恋愛することを推奨する。
また、「日本人は仕事に生きがいや充実感などを期待し過ぎだ。もっと引いた見方をしないといけない。」として仕事中心主義を戒める。そして、「時間と最低限のお金があれば、あとは工夫次第で、幸せな毎日が送れるはずだ」という自らの持論を披瀝してもいる。
14歳に向けて書かれたこの一冊は、頭を使わずに読むと、そうだよ、その通りだよと、大人でも素直に納得してしまうかもしれない。しかし、よく考えてみよう。宮台さんは「いろいろな人間関係の中で他者からの承認を得る経験を積むことが一番大事であり、それでこそ人間はタフになれる」というエールを14歳の男女に送っているのだ。しかし、現実はそれほど楽観的だろうか。他者とよべる他者と上手く巡り合えるものなのか。そして、承認を得ることはそれほど簡単なことなのか。メッセージは理解できるが、どう実践するのかとなると難しい。ましてや宮台さんは「親と学校が君をカン違いさせる」と書いている。そのような環境の中で「14歳」は、どう抵抗できるというのだろうか?
私は、承認経験に基づく尊厳やタフさというものに対してすら懐疑的だ。そんなものは、状況が変われば簡単に崩れ去るもののように思われるからだ。人間の強さなど、よほど卓越した人物でない限りたいしたことはない。弱いものだ。
それならば、「タフになること」「なんとかなるという感覚を持つこと」よりも、他者とのネットワークを確実に築くことの方が重要ではないのだろうか?
本書のタイトルは「14歳からの社会学」だ。上限は記されていない。高齢者がこの本を読んでも、もう手遅れなのだろうか?(笑)