白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

集中講義!アメリカの現代思想

集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)

集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)

本書は大きく「リベラルの危機とロールズ」「リベラリズムの現代的展開」「ポスト冷戦期のリベラリズム」の3部構成になっており、時代を追ってリベラリズムの変遷や対立関係、論点が客観的に分かりやすく整理されている。
それにしても「リベラル」とは何なのか。簡単に言えば、アメリカ的なリベラルとは、弱者に優しい政策を行うことで、「自由」の基礎としての「平等」を実現するということだ。リベラルが社会主義を目指すことはないが、社会主義的・計画経済的な考え方に対して、一定の理解を示すことが多いのだと言う。(P.71参照)また、経済学的に言えば、ケインズ主義が代表的なリベラルであり、ハイエクフリードマンといった自由主義者はそれに反対して「リバタリアン」という立場をとる。さらに自由を推し進めて、国家そのものを認めない、アナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)という考え方もある。逆に各個人を自己完結したものと捉えず、個人と共同体の関係を重視するコミュニタリアニズム共同体主義)も存在する。
このような中で、1980年代のアメリカの経済政策は「リバタリアン的な方向」にあったのだが、そこに、もうひとつの思想潮流が生まれる。いわゆる「新保守主義 Neo-Conservatives」であり、その中でも最も強力な勢力が宗教右派であったことは良く知られるところだ。
仲正は言う。アメリカのリベラリズムの影響は、哲学関係の業界では世界的にかなり浸透しており、その優位はそう簡単に揺るぎそうにない。今では、イギリスの自由主義リベラリズムとは違う意味でリベラリズムという言葉は用いられており、アメリカの現代思想はドイツやフランスを凌駕しているのだと。しかし、ロールズノージック、ローティの三人が亡くなって、「リベラリズム」は現在停滞期に入ったと。
本書は、読みやすい本ではあるが、登場する学者の著作を、その代表作だけでも読んでいるか、あるいは読むことができるかと問われると、哲学業界人でもない限り無理だとしか思えない。もちろん、私も哲学業界人ではない。市民と乖離した思想にどれほどの価値があるのか私には分からない。グローバル化の道を歩む中で、「帝国」の市民となるのか、「国民国家」を維持するのかという大きな問題が横たわっている。しかしながら、このような問題を真剣に考えている人は圧倒的に少数派だろう。
日本の政治は、政策やスローガンあるいは利害が中心にあって、背骨にある「理念」が見えてこない。大きく分けて、保守なのか、リベラルなのか、リバタリアンなのか、コミュニタリアンなのかすら見えてこない場合がある。これが、日本の「無思想という思想」なのだろうか? もっとも、現代思想は「高尚すぎる理念」「専門家でなければ口を挟めない場所」になってしまっているのかもしれない。残念なことにだ。