白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

ある広告人の告白

ある広告人の告白[新版]

ある広告人の告白[新版]

特に最近思うということでもないが、私にとってはテレビの広告というものが不思議である。良いなと思う広告は1割弱。まあ、あるかなという広告が4割。残りの5割強については、なんだかな、という印象を持っているからだ。なんだかな、というのは本当に広告として効果が上がっているのだろうか、という意味だ。この印象が個人的なものなのか、普遍的なものかは分からないが、調査でも記憶に残らない広告が多いことは良く知られるところだ。

本書は、1962年に現代広告の父と呼ばれるデイヴィッド・オグルヴィが書き、世界14ケ国に翻訳された、いわば現代広告の古典的教科書である。章建ては以下の通りだ。
 1.広告会社の経営手法
 2.クライアント獲得の秘訣
 3.クライアントとの関係を持続させるには
 4.クライアントに贈る15のルール
 5.成功する「広告キャンペーン」とは?
 6.「強烈のコピー」作成法
 7.人を惹きつけるイラストレート法
 8.視聴者を動かすTV・CMの条件
 9.「食品」「観光地」「医療品」キャンペーンのポイント
 10.一流広告人への道案内
 11.広告への批判に対する私の回答
古典的教科書に照らして、現代の広告を詳細に評価してみるのも有効だろう。もちろん、テレビだけでなく、ネット広告や新聞広告についても同じことだ。時代と共に変化した部分もあるし、変化しない部分もある。単なる効果測定に留まる調査ではなく、より掘り下げた調査・分析がなされ、広告のイノベーションが起こっても不思議ではないのだが、寡聞にしてそういう話は聞かない。

さて、本書は何故ベストセラーになったのか。一つには実績があり実践に基づいて書かれた本だということだ。これは強い。観念論をいくら並べても説得力はない。第二にあげられるのは、広告人らしい大胆で刺激的な表現、文体だろう。一例を示そう。

4.クリエイティブな面で広告会社のライバルになるな。犬を飼っているのに自分で吠える奴がいるか?(p.148)

天才はほとんど例外なく不愉快な人間だ。(p.161)

刺激的で、覚えやすく、それでいてどこか笑える表現が、この本の持ち味でもある。難しい言葉は使うな、同じコピーに広告主は飽きていても消費者は飽きていない、などは、どこまで現代に通用するのか分からない。商品のライフサイクルも、流通も大きく変化したからだ。ただ、言えることはブランディングにおける広告戦略の重要性だけは変わらないということだろう。余談だが、アルファ・ブロガーはそのことを良く心得ている。
念のためにつけ加えれば、私はアルファ・ブロガーになるつもりはない。なぜならば、アルファ・ブロガーは早死にするという統計がアメリカで出ているからだ。ブログで早死になんて嫌ですから。(笑)