白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

コトラーのマーケティング3.0

コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則

コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則

さすがは神様コトラー。現代のビジネス・パーソン必読の名著である。これまでのマーケティングの進化過程も簡潔に整理したうえで、ソーシャルメディア革命という人類史的大環境変化に対応するマーケティングのあり方を、膨大な情報と高度なコンセプトワーク、洗練された思考と技法で鮮やかに示している。

マーケティング1.0では、機能的価値が重要だった。
マーケティング2.0では、これに感情的価値が加わった。
そして、マーケティング3.0では、さらに精神的価値が加わる。

現在の消費者は、機能と感情の充足だけではなく、精神的な充足も求めている。ここで重要となってくるのが、企業のビジョンとミッションと価値(観)だ。消費者は企業を一つの精神を持った存在と捉え、それに共鳴するか、反発するかが行動の基準となる。従来、企業の行動はマスメディアを通じて情報をコントロールすることができた。しかし、ソーシャルメディアの現在、そんなことは不可能だ。今や一人の消費者もソーシャルメディアを通じて立派な(立派でなくても良いが)マーケターとなることができる。いや、すべての消費者がマーケターだと考えた方が良いだろう。そして企業のマーケターは消費者の声を傾聴するというスタンスになる。言い換えれば、マーケティングの協働だ。

コトラーの示すマーケティング3.0は、協働マーケティング、文化マーケティング、スピリチュアル・マーケティングの融合である。本書は、これらについて書かれたものだが、難解で複雑、あるいは高度な部分もあり、そのまま自分のものとして利用することは難しいとも感じた。私は、これらの要素を考慮して自分用の腹に落ちる枠組みを作っている。特に、価値(観)についてのいくつもの次元は紛らわしい。示されている内容は明確なのだが、この用語で議論したのでは混乱するのではないだろうか。また、統合と多様性について、私はコトラーとはまったく異なる立場をとる。従って、私は私の枠組みを作るしかない。

さて、タイトルを第4の波としたが、これは、トフラーの「第3の波」を踏まえてのものだ。第1の波が農耕時代、第2の波が産業革命、第3の波が情報革命だった。そして第4の波とはインドネシア共和国大統領、スシロ・バンバン・ユドヨン氏によれば「創造性や文化、伝統、環境を重視する波」だと言う。これには、精神性も付け加える必要があるだろう。

いずれにしても、企業が社会的、文化的価値観を無視したり、態度を表明せずに中立を保つことは難しくなった。さらに、政治的にも同じことが言える。企業はこの領域で新しい独自の視点、態度を創造するという極めてコンセプチャルな作業を進めなければいけない。

第4の波はまだ始まったばかりで、これからますます大きな波となるだろう。近い将来、マーケティング3.0を考慮しない経営が不可能となる時代が来る。いや、すでに来ているのかもしれない。

なお、本書については、風見舞氏のエントリも興味深い。参考にしていただきたい。

■2011年4月8日、追記
この本については、まだまだ書いておきたいことが多数ある。それでいて書ききれないのは、単に面倒で時間がないから、という以上に私自身がまだ整理できていないということだ。それだけ、考えさせられる部分が多いということだろう。

さて、105ページに「消費者にミッションをマーケティングする三原則」というものがある。
1.普通ではないビジネス
2.人びとを感動させるストーリー
3.顧客エンパワーメント
なお、マーケティング3.0では、消費者と企業がマーケティングを協働するということは基本だ。
そして、一流企業とは「○○の象徴」という形ですぐに分かる企業だと言う。ザ。ボディショップは社会活動の象徴、ディズニーは家族の理想の象徴、ウィキペディアは協働の象徴、イーベイはユーザーによる統合の象徴だ。

マーケティング3.0においては、コミュニティを創造し、維持し、拡大することは欠かせない。敢えて書くまでもないが念のため。なお、コミュニティに、プール型、ウェブ型、ハブ型という分類があることも常識だろうか。

この一文は、特に強調しておきたい。

文化的価値を持つとは、社員や職員に自分自身の生活や他の人びとの生活に文化的な変化を起こそうという気持ちを抱かせるという意味だ。(p.115)

変化、変化、変化。いかにもアメリカ的なプラグマティズムがこの底流にある。良い悪いではなく、それは現実だろう。
社会文化的課題に取り組みステップは、次のようなものだ。
1)社会文化的課題を特定する。
2)ターゲット構成集団を選ぶ。
3)変化を生み出す解決策を提供する。
そしてこれは、第10章「まとめ」にある、マーケティング3.0の10原則の4番「製品から最も便益を得られる顧客を狙う」に対応すると言えるだろう。いずれにしろ、企業が人格的な存在となった世界では、八方美人ではいられない。

その他、グローバル市民でありローカル市民でもある個人にかかる負荷とジレンマに触れるなど、流石にコトラーという深みのある本だ。いや、あり過ぎる。どこかでケジメをつけよう。さて、次の追記はいつか。