白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

「つながり」を突き止めろ

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)

本書が扱っているテーマは、ソーシャルメディアにおける「つながり」であり、ネットワーク分析だ。ソーシャルメディアの登場以降、社会は階層型からネットワーク型へと変化している。それは組織においても同様の現象だ。ネットワークは、会社や地域、世代といった単純な社会的分類を超えて形成される。そこでは、社会的地位、知名度、財産などではなく、知識や技能が権威の源泉となって行く。筆者は、さまざまなネットワーク分析を踏まえて、「ネットワークそのものの強さ、怖さ、魅力」を伝えたかったと書いている。ソーシャルメディア内の「つながり」を分析することは、その運営会社にとっては容易であり、それは実際に行われていることだ。今は、ネットワーク分析やテキストマイニングのツールも発達している。そして、そこからは多くの興味深い結論が導き出される。
「人間や組織の行為は、そのネットワークが決定する。」(p。236)その人の属性を調べるよりも、その人がどういうネットワークの中にあるか、という事の方が重要なのである。その人を知るには、その人の友達を見るのが一番早くて正確なのだ。そう言えば、最近の朝日ジャーナルに批評家の濱野智史氏が「人間が熟議するのではなく環境が熟議する」ということを「一般意思2.0」の一モデルとして示していたのを思い出した。しかし、環境という言葉は曖昧で、昔から使われていた空気という言葉の言い換えとも受け取れる。むしろ、「ネットワークが思考し、発言し、議論している」という言い方の方が適当ではなかろうか。個人はネットワークという網の目においては点に過ぎない。
海外では、社員により快適な職場環境を与えるためのネットワーク分析に1000万円をかけて席替えを考えるというビジネスが生まれているらしい。快適な情報環境が社員のパフォーマンスを最大化する。そのための1000万円が安いのか高いのか。まあ、最初のうちの顧客は、これを宣伝に使える(?)というメリットもあるだろうが・・・。
マーケティングにおいてネットワーク分析の重要性が増していることは誰もが知っている。しかし、ソーシャルメディアは社会、組織、経済、そして個人の生活のすべてを変えてしまう第4の波だ。マーケティングやビジネスに限らず、ソーシャルメディアとネットワーク分析の成果が意味するものについては、誰もが知っておくべきだろう。
良いネットワークに属していれば安心というものではない。ネットワークによって拘束されてしまう場合があるからだ。バートの「構造的空隙理論」は次のように結論する。

重すぎる関わりにはまり込むな。
冗長な関係に埋もれるな。
むしろ、今存在しない関係の空隙を見つけ、
関係を橋渡しする位置を占めよ。

さて、これが可能なのはどういうタイプの人だろう。私の答えは敢えて書かないでおく。
SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)での良質なコミュニケーションの生成と維持に貢献したのは、互いの友人、知人関係を公開するというアイデア、システムにあったと言う指摘も重要だろう。そしてここでは、「複数の他者から見える自分のイメージを統一しておくと、人間関係が安定し、かつ広がりやすい」ということが証明されている。ブランディングと言う人もいるが、それでは息苦しい。むしろ変な隠しごとをしないこと、そして前面に打ち出すイメージを明確にすることを心がける程度で良いのではいだろうか。無理に虚像を作って成功しても、それは苦しむをもたらすだけだと思う。
他にも、ネットワークはスケールフリーであり弱肉強食という性質を持つこと、井戸端会議には巨大な需要があること、ネットワークもまた社会統制の道具となりうること(エプスタイン)、弱い紐帯の強さ、グラフ理論、ハイパフォーマーの特徴、6次の隔たり、交換理論(ピーター・ブラウ)など、書きだすときりがない。
筆者の安田雪さんは1963年生まれの社会学者であり、ネットワーク分析一筋に研究をされてきた方だ。文章もとても上手く、印象的な箇所がいくつもあった。タイトルに掲げた「つながりに賭ける」も本書の252ページに出て来た言葉だ。その意味するところは、特定の人にではなく、ネットワークに賭ける、という意味だ。これは冷徹というよりも清冽な感じがする。読んでいて、とても気持ち良かった。そしてまた、この知恵を生かして行きたい。