白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

母の発達

母の発達 (河出文庫―文芸コレクション)

母の発達 (河出文庫―文芸コレクション)

主人公ヤツノは頭がおかしい。高校時代から母との関係がおかしくなる。そして母を小さくして遊ぶなど、空想によって異常な関係を解消しようとする。しかし、うまくは行かない。結婚することも、子供を作ることも、いや外に出ることもなくなったヤツノは母を殺す。しかし、母は死なない。それどころか母は発達するのだった。それは、ヤツノが母による呪縛から逃れるための戦略だったのかもしれない。「あ」のお母さんから、「ん」のお母さんまで、いろいろと試しているようでもある。これは母とのより良い関係の探究なのだ。
小説のスタイルは、ドタバタ・ファンタジーだ。このドタバタ感について行けるかどうかが、この本を読むポイントでもある。好き嫌いはハッキリと分かれるだろう。
確かに灰汁の強い母のようで、ヤツノが苦しむのは良くわかる。いろいろな母が登場することから、そこに自分自身の母を見ることもある。近代の家族制度を批判しているという読みもあるが、そうではない。それは口実に使われているだけだ。
私は男なので母と娘の関係については良くわからない。まあ、どんな親子であっても、子の側には思うところがあるはずだ。完全に良好な親子関係など、逆に気持ち悪い。
母を好き放題にいじるこの小説は、女性にとってストレスの発散になるのかもしれない。というよりも、作者である笙野頼子氏自身が、一番発散したのではないだろうか。
社会学的、心理学的に高尚な意図を読み取る必要はないだろう。ドタバタを楽しみながら、ふと何かを思えれば良い。「母の発達」はそういう本なのだと、私は思う。