白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

新しいキャリアの考え方

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

意外なことに、ある人の生活水準が一定レベル以上に達すると、それ以上に生活水準が向上すればするほど、概して幸福感が弱まっていく傾向がある。もし現在のペースで消費が拡大し続ければ、人々の幸福感が減退する可能性が高い。(p.53)

20世紀のキャリア・デザインは単純だった。一つの専門分野で成長し続けること。それだけで良かった。そして、60を過ぎて引退という形で、仕事と切り離される。しかし、21世紀になって大きな変化が起きている。テクノロジーの進化やグローバル化で働き方が変わってきた。長寿化に伴う長い隠居生活も退屈なものかもしれない。社会も、企業も大きく変わって行く。いや、変わらざるを得ないのだ。
本書は、2025年に照準を合わせたいろいろな物語から、変化の様子や問題点を洗い出す。読む本というよりも、これを参考に自分のキャリアを、人生をデザインしましょう、という本なのだ。
筆者、リンダ・グラットンは32の要素を抽出した。ここから自分のストーリーにあった素材を選び出す。また、よく考えて足りない素材を補う。そして、それらを組み合わせて自分自身のストーリーを作るよう勧めている。これは何も、これから働こうとする人々だけに必要な作業ではない。今、働いている人もまた考えておくべきことなのだ。そうでないと、収入は良いが、ただ忙しく、満足感の得られない人生を送ることになるかもしれないのだから。
ワークシフトとは、具体的に以下の三つを指している。
1.ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
2.孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
3.大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
この本の帯には「これからずっと、食えるだけの仕事で良いですか?」というコピーが踊っている。私が就職した時代には、キャリアということばエリートにだけ用いられる概念だった。仕事とは稼ぐためのものと、多くの人が割り切っていたように思う。しかし、そういう考えでいると、グローバル貧困層に取り込まれるのも時間の問題なのだろう。それが、悪いとは言わない。ただ、あの時それを知っていれば、という後悔はしたくないものだ。本書は、これからのキャリアを考えるうえで、必読の一冊だと思う。