スパゲッティと宇宙
- 作者: イタロ・カルヴィーノ,米川良夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/07/22
- メディア: 文庫
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「月の距離」は、まだ地球と月が今ほど離れておらず、梯子で行き来出来た時代の愛の物語。その切なさを描くのに、実にふさわしい舞台構成だ。
私が前に読んで一番印象に残っているのが「ただ一点に」というビッグバン以前の宇宙(?)を描いた作品だ。Ph(i)NKo夫人のひとことが空間を生んだのだという。
「ねえ、みなさん、ほんのちょっとの空間があれば、わたし、みなさんにとてもおいしいスパゲッティをこしらえてあげたいと思っているのよ!」
この普遍的な愛情が空間の観念と空間と時間を作り出したと本には書いてある。しかし、このひとことで、皆は何万光年の宇宙の果てへとバラバラになり、そしてまた無数のPh(i)NKo夫人が生まれる。
私はスパゲッティを食べるたびに思い出す。貴方が私で、私が貴方だった幸福な宇宙なき時代のことを。いや、思い出せないか。(笑)
この本を読むには無邪気でなければいけない。無邪気にならないと、この本は読み進まないだろう。この本ほど、無垢の境地を味あわせてくれる本を、私は他に知らない。