白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

スパゲッティと宇宙

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)

昔読んだイタロ・カルヴィーノの「レ・コスミコミケ」を再読している。宇宙誕生の時から生きてたQfwfq老人が語る宇宙誕生期の物語の数々。SFというか童話というか新時代の神話なのか。とにかく純真な子供の心を思い出させてくれる短編集だ。
「月の距離」は、まだ地球と月が今ほど離れておらず、梯子で行き来出来た時代の愛の物語。その切なさを描くのに、実にふさわしい舞台構成だ。
私が前に読んで一番印象に残っているのが「ただ一点に」というビッグバン以前の宇宙(?)を描いた作品だ。Ph(i)NKo夫人のひとことが空間を生んだのだという。

「ねえ、みなさん、ほんのちょっとの空間があれば、わたし、みなさんにとてもおいしいスパゲッティをこしらえてあげたいと思っているのよ!」

この普遍的な愛情が空間の観念と空間と時間を作り出したと本には書いてある。しかし、このひとことで、皆は何万光年の宇宙の果てへとバラバラになり、そしてまた無数のPh(i)NKo夫人が生まれる。
私はスパゲッティを食べるたびに思い出す。貴方が私で、私が貴方だった幸福な宇宙なき時代のことを。いや、思い出せないか。(笑)
この本を読むには無邪気でなければいけない。無邪気にならないと、この本は読み進まないだろう。この本ほど、無垢の境地を味あわせてくれる本を、私は他に知らない。