白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

ゲームが世界を変えて行く

幸せな未来は「ゲーム」が創る

幸せな未来は「ゲーム」が創る

本書は最先鋭のゲームデザイナーにして世界が注目するイノベーターであり、研究者でもあるジェイン・マクゴニガル女史による画期的な社会改革論である。インターネットの普及とともに、世界はゲーマーに溢れている。そんな状況を嘆くのは古い人々だ。逆に、人はなぜゲーマーになるのかを理解しなくてはいけない。端的に言えば、ゲームに比べて現実は不完全なのだと筆者は言う。現実は生産性が低く、一人一人の能力を活用しきれていない。脳の状態で言えば、夢中になっている状態=フロー感に至ることが現実には少ない。うまくデザインされたゲームは、人の能力を最大限に引き出し、幸福な状態へと導いているのである。
ゲームに固有の4つの特徴。それは、ゴール、ルール、フィードバックシステム、自発的な参加だとジェインは言う。他にもいろいろな特徴があるが、重要なのはこの4つなのだと。ゲームデザイナーがまず最初に設計する部分だとも言えるだろう。
最先端のゲームデザイナーは心理学者でもある。今や、お金や物、地位といった外発的な報酬、自分自身の外に幸福を求めることは、本当の幸福を求めるうえでの妨げになるというのが定説のようだ。1960年代のニューエイジブームから言われてきたことだが、2011年の今、アメレイカではアメリカン・ドリームという神話は確実に終焉を迎えている。逆に、中国やインド、ブラジルで外発的報酬の快楽への熱狂が見られるようだが、それも一時的な現象として収束するのだろう。幸福は獲得するものではなく、生み出すものなのだ。何かに打ち込み、没頭する喜びを得ること。これに尽きるようだ。
本書では成功している優れたゲームが多数紹介されている。こうしたゲームデザインのノウハウには企業も注目しており、組織や業務のデザインに取り入れようとする動きも活発だ。いや、ビジネスだけではない。環境問題、資源問題、貧困問題といった世界の重要課題についても、ゲームの持つ可能性が注目されているのである。本書を熟読することで、いろいろなヒントが得られることだろう。