白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

インテリジェンスの賢者たち

インテリジェンスの賢者たち (新潮文庫)

インテリジェンスの賢者たち (新潮文庫)

手嶋龍一氏は、1949年生まれの外交ジャーナリスト、作家である。
さて、ここで言うインテリジェンスとは、諜報や極秘情報という意味であるとともに、それに基づく分析を含む総合的な知性である。それは、武器なき戦争の主役とも言えるだろう。その意味で、国際政治学者は現代のスターなのだ。
本書は、ジャーナリストとして体験した世界各地での重要人物との交流を描いたものだ。世界を、歴史を動かす人々の世界には誰もが興味を持つのではなかろうか。
この本を読むと、日本人の世界感覚が、いかに温いものかが良くわかる。手島氏はイギリスの情報士官の言葉を借りて、こう指摘する。

アジアの冷戦構造に深く組み込まれた戦後日本は、同盟国アメリカに自国の安全保障を安んじて委ねてしまった。それゆえに、国際秩序の創造に関わる志を喪い、この分野で一級の人材を育てなかった。そして明日の戦略を担う若い世代の払底に苦しんでいる。それが今日の日本の混迷を招いてはいないか。(p.37)

その通りだと思う。さらに付け加えるならば、戦後の教育が問われるべきだろう。戦後の知識人は、知識はあっても、それが血となり肉となっていないように感じられる。良くも悪くも、「知から生まれる凄みのある信念」というものが感じられない。これは、一つには歴史観の欠落であり、もう一つは客観性の誤用にある。
本書を読むと、世界と日本との「差」が、はっきりと分かるだろう。