白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

スコーレNo.4

スコーレNo.4 (光文社文庫)

スコーレNo.4 (光文社文庫)

宮下奈都。1967年生まれ。2004年にデビューした作家である。私がこの本を手にしたのは、たまたま書店に並んでいたから、としか言いようがない。作品も作家も知らなかった。ただ、軽い小説を読みたいという気分で買っただけだ。
本書は、古物商の家に生まれた主人公麻子の幼少期から結婚までを描いた小説なのだが、まずは筆者の筆力に感心した。すぐに小説の中に入って楽しむことが出来る。その手腕は卓越していると言って良いだろう。
それにしても真面目な小説だ。主人公はごく普通に大学に進み、就職し、それなりに恵まれた部類に属する生活をしている。たいした事件も起こらなければ、悪い人も出てこない。もっと言えば穢れたものがどこにもない。衝撃的な小説になければならない毒が、どこにも無いのだ。
確かに読んでいて面白いし内容には引き込まれれる。主人公である麻子の心の機微や成長は、実に巧みに描けている。しかし、そこにあるのは読んでいる時の楽しさと、読後の清涼感だけだとも言える。文学というよりは、極めて軽く作られたエンターテイメントなのだ。私は少し首を捻る。有り得ないほどのピュアな世界の物語が求められている時代なのだろうか、と。
そう言いながら、他の作品も読んでみたくなるあたりが、筆者の力量を示しているのかもしれない。