ミッション・リーダーシップ
- 作者: ビルジョージ,Bill George,梅津祐良
- 出版社/メーカー: 生産性出版
- 発売日: 2004/08
- メディア: 単行本
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いろいろと考えたのだが、考えていても仕方がない。当分はビジネス関係の本について書くことにした。トップバッターがこの「ミッション・リーダーシップ」。参考にはなるものの、どうも陳腐な人生観を押しつけられるような感じがして不愉快だ。良い点は後で書くとして、面白くない点をはじめに書いておく。
何しろ、筆者は「充実した人生」を価値あるものとしているようだ。私に言わせれば、人生などガタゴトしているから面白いのだが、世の中にはいろいろな人がいる。何でも、本物のリーダーか否かは、1.目的(情熱)、2.価値観(行動)、3.人間関係(深い結びつき)、4.自己統制(一貫性)、5.真心(慈愛)、によって決まるのだとか。参考にはなるが、これが真理だと言われると苦笑するしかない。まあ、そう言いながらも私は、忍耐力を発揮して読み進んだ。(笑)
■2 筆者:ビル・ジョージ
この本は、アメリカで出版されたのが2003年、日本語版の出版が2004年である。同氏のブログ(http://www.billgeorge.org/blog/)によると、現在はハーバード大学ビジネススクール教授のようだ。また、2001年までは世界の最先端医療技術企業のメドトロニックのCEO兼会長であり、同社の株価時価総額を11億ドルから600億ドルにしたと言われる。また、アメリカでも同氏の著作はベストセラーとなっている。
■3 現在の資本主義
しかし資本主義はその成功の餌食となった。成長率、キャッシュフロー、対投資利益率といったこれまでの評価基準ではなく、企業の成功の基準は、投資アナリストの期待値をどれだけ満足させたか、というものになっている。(p.4)
さりげなく書かれているが、この一節は歴史的証言として記憶にとどめておくべきだろう。アメリカで続発した大企業の不正事件という背景とともにだ。
■4 リーダーシップの本質
本物のリーダーは生まれながらにその特性を身につけているわけではない。(中略)彼らは目的意識と、意義、価値観に基づいてほかの人たちをリードする。(p.16、17)
筆者は、リーダーシップは、目的意識、価値観から生まれるのだと主張する。要は、目的意識や価値観を共有(悪く言えば洗脳)しようとすることこそが、リーダーシップの本質だということです。
■5 CEO病
一度四半期ごとに利益を出す圧力の軍門に下ると、自社ビジネスのグレー領域で妥協を繰り返し始める。つまり売上げと利益の間に存在する、広範囲の項目だ。たとえば長期的に見て、あなたの企業にとって重要であり、場合によては不可欠の案件を犠牲にし始める。この悪循環を生み出す元凶は失敗に対する怖れではなく、むしろ成功に対する渇望なのだ。(p.25)
これは、筆者の言葉ではなく、ノバルティスCEOのダニエル・バセラ氏の言葉だ。こういう症状もまた、時代背景とともに記憶しておくべきかもしれない。経営の歴史として。
■6 CEOの報酬
これに対して、今日のCEOは、その時間給従業員の給与と比較して、平均で500倍の給与を受けている事実を思い返して欲しい。最近のデプリーは「もしリーダーが法外な報酬をむさぼり、パワーの罠にはまると、自分のリーダーとしての立場を著しく傷つける」と述べている。(p.32)
デプリーというのは、家具製造のハーマン・ミラー社の前CEO、マックス・デプリー氏のことだ。しかし、この一節の「立場を著しく傷つける」というのは、どういう意味なのか。現実は、「リスクを伴う」程度にとどまっているのではないのか。もっとも、これはアメリカの話であって、多くの日本企業には関係ないことかもしれない。
■7 モチベーション
第4章 ミッションは人材をモチベートするが、お金はモチベートしない。(p.87)
これは・・・前半は正しいとし、後半は誤りだと思います。
ミッションこそ、人材がきわめて高いレベルのイノベーション、クオリティー、カスタマー・サービスを実現することに向けてエンパワーする際の強力なモチベーターとして機能している。(p.98、99)
うむ。でも、ミッションだけでは人は動かないでしょう。ある程度の報酬が約束されていなければね。
■8 価値観か、業績か
今日のビジネスに伴う最大のチャレンジは、価値観尊重と業績重視の両方を備えた企業文化を創り上げることだ。(p.101)
だんだんと、ミッション経営の核心に迫ってきます。この一文は、とてもリアルです。この章では、筆者の体験談が語られています。
■9 ステークホルダー
第6章 カスタマーがもっとも重要だ(p.116)
すべてのステークホルダーに、とお茶を濁して優先順位をつけないやり方ではダメだということですね。明快です。
■10 イノベーション
企業が大きくなるにつれ、マネジャーが示す自然の傾向は、ルール、プロセス、規則でビジネスをコントロールすることだ。この官僚主義の増長は、イノベーティブなアイデアの発揮に大いな障害を生み、創造性の発揮を抑えつける。企業がいかに巨額の予算を研究開発に注ぎ込んでもこれらの傾向は抑えられない。そこでイノベーションにコミットしているリーダーとしては、創造的な一匹狼やイノベーターに機会を与え、ビジネス・ベンチャーがなお脆弱な生成期にある頃からこれらの新規ベンチャーを守ることを通じて、官僚主義的傾向を減らすことに努めなければならない。(p.191)
イノベーションは永遠の課題なのだろう。一体誰が、本物のイノベーターと、ただの変わり者を見分けることが出来ると言うのか。成功例は、法則を示すものではなく、幸運を示すだけのもののように思われる。
■11 後継者
引用は控えよう。要は自分はこうして後継者を育て、成功したという事例が示されている。後継者の育成が経営者の重要な仕事であることは言うまでもあるまいし。
■12 おわりに
本書はミッション経営を多面的に捉えた好著であり、とても参考になった。ただ、基底にあるのは「勝利しなければ、ミッションは果たせない」という経営の現実だ。これが、現代グローバル企業のおかれた環境なのだろう。そして、筆者の発想は、環境への適応などではなく、あくまでも規模の追求である。これでは、ミッション経営と言いながらも、過去の発想に囚われ、未来への想像力を欠いていると言われても仕方あるまい。まあ、いかにもアメリカ的な本でした。