フリー
- 作者: クリス・アンダーソン,小林弘人,高橋則明
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: ハードカバー
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本書は「ロングテール」という言葉を2004年に世界に知らしめた「ワイアード」編集長、クリス・アンダーソンの最新作だ。フリー(無料)というものを、その歴史を含めて多角的に考察し、20世紀のマーケティングにおけるフリーと、21世紀のフリーの影響力(破壊力)の違いを丁寧に解説している。
フリー戦略は「内部相互補助」のいくつかのバリエーションだ。
1)有料商品で無料商品をカバーする。
2)将来の支払いが現在の無料をカバーする。
3)有料利用者が無料利用者をカバーする。
また、こうも分類されている。
a)直接的内部相互補助
b)三者間市場
c)フリーミアム(フリーで人を集め、有料版を出す)
d)非貨幣市場
本書はマーケティングの最新テクストであるのは確かだが、私が注目するのは「経済におけるフリーのインパクト」だ。本書の試算では、すでにフリー経済の規模(価値量)はカナダのGDPに匹敵すると書かれている。ここでは、「無料経済とフリーの世界」(第11章〜第14章)のうち、第11章「ゼロの経済学」、第12章「非貨幣経済」にスポットをあてることにしたい。
アントワーヌ・クールノー。正直、聴いたことのない名前の経済学者の「富の理論の数学的原理に関する研究」という著書(1838)が紹介される。そして、この本を評価したフランスの数学者ジョセフ・ベルトランの結論を次のように紹介する。
企業は生産量を制限し価格を上げて利益を増やすよりも、価格を下げて市場シェアを増す道をとりやすい。実際に、企業は製造コストのギリギリ上、すなわち限界費用価格まで安くしようとする。価格が下がることで需要が喚起でき、価格を下げれば下げるほど需要は増える。
<ベルトラン競争>を簡単に言うと次のようになる。競争市場においては、価格は限界費用まで下落する。
もしも、これが法則であるとするならば、フリー(無料)は、その終着点ということになる。では、どうやって企業は稼ぐのか。それにはいくつかのビジネスモデルがある。例えば、数百万人の顧客の中のほんの一握りから莫大な収益を産んでいる場合がある。そして、ちょっと考えていただきたいのだが、限界費用がゼロに近いビジネスは身近に多数ころがってはいないだろうか。
筆者は現代を「潤沢経済の時代」と位置付けているように見える。そして、この時代における個人の動機が、もはや単なる豊かさではなく、コミュニティへの参画であったり、個人的な成長であったり、助け合いであったりするという調査結果についてマズローを引きながら解説して行く。そして、仕事だけでは活かしきれないエネルギーや知識が、経済全体に大きなインパクトを持つ時代になっていることを指摘する。
これは、「経済のルールが変わった」ということを意味している。「フリー」に対しては感情的な反論や批判も少なくないが、本書ではそれらに対しても丁寧な回答が書かれている。
なお、本書は「フリー」(無料)と言いながら無料ではないじゃないかとは言わないで欲しい。アメリカでは、2009年7月7日に発売された後、9日には書類やプレゼンテーション資料を共有できるサービス「Scribed」の電子版が無料で配布され、音声ファイルのオーディオブックが「Wired.com」内に作られたサイト内などで無料公開されている。さらに「キンドル」用も無料で配布されているそうだ。
はたして、経済学者達はこの「フリー」というトレンドをどう説明するのだろうか?