白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

スティーブ・ジョブズ 神の策略

スティーブ・ジョブズ 神の策略 (リュウ・ブックス アステ新書)

スティーブ・ジョブズ 神の策略 (リュウ・ブックス アステ新書)

この本は二つの面でエキサイティングな本だ。
一つはスティーブ・ジョブズというカリスマ経営者のキャラクターと策略、企業という組織での魑魅魍魎とした世界がなまなましく描かれているということ。もう一つは現代の経営のエッセンスがいたるところに示されているという点である。
アップルを追い出されたジョブズがいかなる策略をもってアップルのCEOとして復活し、iPodを大成功させたのか。筆者である竹内一正氏は1995年以降アップルで実際に仕事をしていた人だけに筆致にも迫力がある。天下を獲るために作戦は不可欠だ。謀略も裏切りも作戦のうち。政界だけではなく、一企業の中でもそれは同じことらしい。もっとも、普通は戦略参謀がいるのが常だ。しかし、ジョブズは参謀なしで戦略を立てそれを実行してしまう実に恐ろしい人物なのである。策士にして千両役者だと竹内氏は解説する。もちろん人心掌握の達人でもある。もっとも、その手法や実績は、関西弁で言えば「エゲツナイ」ものなのだが。
また、この本には経営の秘訣もちりばめられている。アイデアよりも人材が重要であるということ。イノベーション(革命)には異端児が必要であるということ。発明よりも製品化が難しいということ。製品開発における経営のリーダーシップのあり方。マネージメントの役割。その他、どこが急所かは於かれている立場によって異なるだろうが、それは一つの理念、哲学で貫かれている。
アップルは当初、敵はIBMだと考えていた。マイクロソフトを敵だとは感じていなかった。これが、ウインドウズが勝ちマッキントッシュが負ける原因となった。マイクロソフトはアップルの優れた技術を見抜き、手際良く契約を締結して技術を盗み取ったのである。「敵を間違えるな!!」。同業他社だけが競合だと思うのは危険な発想だ。ドメインを再定義して、新たな市場を創造するか、市場を奪い取ることを計画することが重要になるだろう。この本で示されているのは、イノベーションを主導としたビジネスのあり方であり、それこそがビジネスの本流であるべきだという思想である。もちろん、CEOとはイノベーションの陣頭指揮をとる人のことだ。ジョブスはエンジニアではないが、それを実践する。はじめに「情熱」あり。