白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

「社会を変える」を仕事にする

「社会を変える」を仕事にする――社会起業家という生き方

「社会を変える」を仕事にする――社会起業家という生き方

筆者は、2007年のNewsweek日本版「世界を変える社会起業家100人」に選出された駒崎弘樹氏だ。駒崎氏は、1979年生まれ。2005年に、江東区中央区で全国初の「保険的病児保育サポートシステム」をスタートさせたNPO法人フローレンスの代表理事である。本書はその経緯を、一人の社会起業家誕生の物語としてたどったものであり、現実の壁、揺れる思い、意外な出来事などが交錯する。
駒崎氏は本書の中で、次のように呟いている。

僕が本当に社会起業家になることができたとしたら、敵は彼のような象徴ではなく、いままさに日本がかかっている「無関心のくせに依存する」病気。日本人の精神性そのものではないだろうか。市民は自治体に依存し、自治体は国からの補助金に依存し、国はアメリカに依存する。そんな、依存という精神の病。

健全な社会(関係)とは、バランスのとれた相互依存で成り立つのだが、駒崎氏がこの文章の中で「日本人の精神性」という言葉を使っているのは注目に値する。山口昌男氏の持論を引くならば、明治以降、日本人は一方的に依存する存在だったのではなく、一方的に依存する存在にさせられていたのだ。そして今、2009年。そのような時代が漸く終わろうとしている。なぜならば、国家にはもう、依存させるだけの体力が無くなってしまったのだから。結果として、日本人の精神性は変わらざるを得ないのだろう。駒崎氏は依存を「精神の病」と言ったが、今までは「依存こそ健康の、そして勝者の証」だったし、無関心すらも「知らぬが仏」として賢明な事とされていたのである。
端的に言えば、今、日本の抱える問題は以下の2点である。
 1)少子高齢化と人口減少
 2)企業の国際競争力の低下と低成長化
そして、ここから導かれるのは
 a)雇用の減少
 b)社会構造の根本的な変化
である。
「社会構造の根本的な変化」とは貧困と格差だ。誤解を恐れず言えば、これは不可避である。今は世代間格差が問題視されているが、これからは世代内格差の方がより深刻になるだろう。そして今こそ、社会起業家の出番だとも言える。それは、ITや金融、コンサルのような華やかな舞台ではない。筆者が語っているように「茨の道」かもしれない。しかし、もはや「社会に対する無関心は許されない時代」となった。
もしも貴方がプロフェッショナルであるならば、プロボラ(プロフェッショナル・ボランティア)として、非営利活動を行うことも出来る。実際に行うことで、真の障害や敵が意外なところにあることに気がつくだろう。今求められているのは、フットワークとネットワークである。とにかく、地域を、あるいはコミュニティを活性化させなければいけない。休日に家で寝転がってテレビを見るのはやめよう。