白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

キャズム

キャズム

キャズム

ハイテク業界のバイブルと言われるこの本が最初に書かれたのは1991年。もはや古典とも言える本なのだが、その後のICTの進歩と、製品、企業の激しい闘いから、キャズム理論はさらにその有用性が証明され洗練された。キャズム(Chasm)とは、少数のビジョナリー(進歩派)と多数の実利主義者との間にある、市場の深い溝のことだ。ハイテク産業は、宿命としてこのキャズムを超えなければいけない。本書には、そのためのマーケッティングと意思決定ロジックが示されている。
筆者、ジェフリー・ムーアはマーケティングをこう簡潔に定義する。「マーケティングとは、マーケットを作りだし、成長させ、維持し、外敵から守るための行動をとることだ。(P.41)」ハイテク市場を見る上で重要なのは時間軸なのだ。イノベーターが開発し、ビジョナリーが市場となる。そして、アーリー・マジョリティ、レイト・マジョリティが追随する。キャズムは、ビジョナリーとマジョリティの間にある。それぞれの局面で、どのようなマーケティングを行うべきか。要約はやめておこう。ただ一つ、重要なことは、キャズムの時期に販売重視の戦略に出るのは致命的だと言うことだ。この時期に重要なことはセグメント支配なのだ。市場規模は大きければ良いというものではない。妥当な市場規模を考えることが重要になる。
さて、キャズムを超えてメインストリーム市場を目指す事例として喩に出されるのが、1944年6月6日の、連合軍によるノルマンディ上陸作戦だ。緻密で大規模な計画と実行。それが出来ない企業は撤退するしかないというのが、ハイテク業界なのである。
新テクノロジーを考える上では、以下の3要素を明確にする必要がある。

 1.新たな試み−新しいテクノロジーに基づく製品を使って、エンド・ユーザはどのようにして問題を解決しようとしたか?
 2.支援材料−この製品のどこがよかったのか? 問題を解決できた理由は?
 3.削減できた経費はどれごどか? また得られた便益は何か?

さらに、製品を考える上では、コアプロダクト、期待プロダクト、拡張プロダクト、理想プロダクトという、ホールプロダクトモデルを用意しておく必要があるだろう。
ハイテク業界のマーケティングだから、非ハイテク業界は関係ない、と考えてはいけない。ハイテクが日常化した現在では、すべての経営者はキャズム理論と無縁ではないのだし、キャズム理論の応用がマーケティング革新の鍵になるとも考えられる。一方で、ロングテールを利用してキャズムを超えずに生き伸びるという選択肢−利益モデルがあっても良いだろう。マーケッターとは流行を分析する人ではない。そうではなく、洞察をもって分析し、理論を作り、理論に基づいて戦略を作るストラテジストだ。さらに、戦闘状態では指揮を取るのが現代のマーケッターだ。さて、貴方の会社のマーケティングは大丈夫ですか?