白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

日日雑記

日日雑記 (中公文庫)

日日雑記 (中公文庫)

私が持っているのは、1992年に出版された単行本なのだが、そんな事はどうでも良いだろう。武田百合子は、大正14年生まれ。文豪、武田泰淳の妻である。「日日雑記」は、平凡な事実を淡々と書く中に、独自の感性がキラキラと輝いている、そんな本である。この本を読むと、何でもない日常の出来事が、実に面白いものに思えてくるから不思議だ。読者は、まるでその場に一緒にいるかのような錯覚を覚えるのではないだろうか。

この日記は、1998年6月から、1991年4月まで、ある雑誌に3年間にわたって連載されたものだ。冒頭のページには、ただ1行「−いなくなった人たちに」と書かれている。これは、この日記の登場人物の何人かが、この本を見ることなく他界されたということであり、その人たちへ、という思だ。
「事件も何もない天国より、私はこの世の猥雑さが好きだ」といった科白があったように記憶しているが、この本ではなかったかもしれないし、探すのも面倒だ。たまには、のんびりとこういう本を読むのも、良いのではないだろうか。ここにもまた、お気楽が。