白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

やわらかな脳の作り方(吉成真由美)

やわらかな脳のつくり方

やわらかな脳のつくり方

憶測だが、今の若い人は「新人類」という言葉を知らないと思う。この言葉は、1984年に生まれた言葉で、1960年代前半生まれの若者を指す言葉だった。今回紹介する吉成真由美氏は、「新人類の誕生―「トランスポゾン世代」は何を考えているか」という本を1985年10月に出版しており、私はおおいに刺激を受けた。ただ、残念なことにこの本が手許にない。誰かに貸したまま返って来ないのか、どこかへ行ってしまったのである。大切な本に限って、こうゆう事が起こる。不思議なものだ。記憶を辿るならば、吉成氏のいう新人類とは、人生に長期のプランを持つことなく、その時々で自らの心の赴くままに活動する人という意味だ。トランスポゾンとは、細胞内においてゲノム上の位置を転移することのできる塩基配列であり、動く遺伝子、転移因子とも呼ばれる。このトランスポゾンをメタファとして用いたのだろう。いまや「新人類。知っているのは、旧人類」だろうか?

さて、今回ご紹介するのは、「やわらかな脳のつくり方」である。章建ては、「1.大脳周縁系の話」「2.知能について」「3.男と女」「4.教育への新しい視点」「5記憶の話」となっている。どれもが、専門的な知識を生かして語られており、とても読みやすい。洗練された無駄の無い文章だ。経歴には、MIT卒、ハーバード修士課程修了とある。さらに現在は脳科学者の道を進んでいると聞く。1953年生まれで、元NHKディレクター。夫はノーベル賞利根川進氏である。

書評なので。若干同書の内容に触れるならば、高いIQが天才でないことの証明や、3歳からでは早すぎる、「触る」の効用といった節が面白い。日本の社会、教育問題についても、明快な答を提示してくれる。また、歳をとると頭が良くなる話、などは私にも希望を与えてくれる。(笑)

同氏の著作の中では、「サイエンスとアートの間に―フラクタル美学の誕生」(1986)も刺激的だった。また、私は未だ読んでいないのだが、その他の著作として「危険な脳はこうして作られる」(2005)、「カラフル ライフ―遅咲きのすすめ」(1995)他がある。

「やわらかな脳のつくり方」の書評というよりは、吉成真由美氏の紹介になってしまったが、そこの処はご勘弁いただきたい。また、ここでご紹介した本の中に、どれか面白そうだな、というものがあれば、それを読まれるのも良いだろう。私も「カラフル ライフ―遅咲きのすすめ」を読もうかと思う。なお、私は、1961年生まれの新人類=旧人類です。