群れのルール
- 作者: ピーター・ミラー,土方奈美
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2010/07/16
- メディア: 単行本
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アリのコロニーには指導者がいないが、単純なルールに従うことで複雑かつ困難な作業を遂行している。また、問題解決を各個体に分散することでリーソースを効率的に分配し、変化に迅速に対応する。こうした自己組織化の仕組みをアルゴリズムとして捉えることで、オペレーション・リサーチに活用し、成果が出ている事例はいくつもある。ミツバチの群れは、多様な情報を集めてアイデアを競い、投票によって短時間で優れた意思決定を行う。シロアリは個体同士が各々の成果を引き継いで間接的な協業を行い見事な成果物を作り出す。ムクドリの群れは近くのメンバーの行動に注意を払うことで、正確な協調行動をとる。
そして、筆者は人間の組織や社会において、以下の点が重要であると結論する。
1.ローカルな知識の重視(情報の多様性維持)
2.単純なルールの適用(複雑な手間=時間のかかる計算の排除)
3.メンバー間の相互作用の促進
4.定足数の設定(有名なところではダンバー数がある)
5.適度なデタラメさを残す(完全にルーチン化しないこと)
さらに、教訓として「個性を封印するな」と主張する。優れた意思決定は、妥協ではなく競争から、合意ではなく意見の不一致から生まれるからだ。「一人一人が自分自身に正直に発言し行動することは、個人のためだけではなく、組織にとっても有益なのだ」というのが筆者が最も言いたいことのようだ。
確かに、それは理想的かもしれないが、自由主義の表面的なイデオロギーに照らしての理想に過ぎないようにも思う。むしろ私は、なぜ人間の組織が、このような理想を実現できないのか、という点の方に興味があるのだ。それを邪悪な欲望などという単純な理由で説明したのでは幼稚に過ぎるだろう。
もっとも、私は筆者の主張を否定しているのではない。。「一人一人が自分自身に正直に発言し行動することは、個人のためだけではなく、組織にとっても有益なのだ」という考え方は、理念として素晴らしい。しかし、この理念の正当性を虫や鳥たちの群れの行動原理から導き出すという論法には明らかに無理がある。
まあ、素直に「組織をより良いものにするための留意点、考え方を示した好著」と書いても良いのだが、私は捻くれているので、正直に書くことにした。きっと筆者も訳者も喜んでくれることだろう。(あ。筆者も訳者も、このブログを読まないか。笑)