白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

ボナンザVS勝負脳

本書は最強の将棋ソフトの一つ<ボナンザ>の開発者保木邦仁氏と、プロ棋士永世竜王渡辺明氏による本だ。
チェスでは、1997年に世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフがIBMのチェスコンピューター「ディープブルー」と対戦し、2勝1敗3分けだった。最強プレイヤーとコンピュータはほぼ互角と言って良いだろう。バックギャモンでは、コンピュータの手を見て人間が学ぶという状況にあり、オセロに至っては、コンピュータの指す手が人間には理解できないそうだ。もちろん、コンピュータが強過ぎるということだ。では、将棋はどうか。2007年3月21日。勇者、渡辺竜王はボナンザと対戦し、辛勝した。棋譜を見たが内容は辛勝だったと思う。それでも、渡辺氏はボナンザは奨励会(プロ養成機関)の3級程度と評価しているが。
私は将棋ファンだ。昔は良く道場でアマ四段で指していた。奨励会の1級に一番手なおりで3度香を引いた事もある。故森安秀光九段の曲線的な将棋が好きだった。彼の棋風は「鋼鉄のマシュマロ」と言われた。非業の死は、誠に残念なことだ。今は、渡辺竜王のファンである。歯に衣きせぬ明快な喋り。冷静さ。将棋に対する姿勢。そして、何よりもルックスが良い。私の元親友N君に似ていたりもする。はやく名人もとってもらいたいとも思っている。
閑話休題
ボナンザの特徴は、それまでの将棋ソフトが、「選択的検索」という手を選んで深く読むという方法を採用していたのに対し、「全幅探索」という手を絞らずに読む方法を採用していることだ。これは、コンピュータチェスの主流のやり方を模した手法である。結果的に、これが成功した。
本書は、開発者の情熱と思考、そして、プロ・プレイヤーの考え方が分かるという点で興味深いものとなっている。世間には、コンピュータが強いゲームは面白くないと見るむきもあるが、私はそうは思わない。むしろ、「理解する」というとが、「ソフトを理解すること」と、「人間的思考を理解すること」の両面を持ってくるわけで、それだけ複雑になり面白くなる。残念ながら、私は将棋のソフトを理解していないが、大いに興味のあるところではある。一般には、コンピュータと人間の戦いと言われるが、開発者は人間である。その意味で、私はこの戦いは人間対人間の戦いだと思っている。それにしても渡辺竜王の以下の発言は力強い。

 もちろん、われわれも負けてはいられないので、遠くない将来コンピュータを本物のライバルとして認識しなければいけないだろう。
 それとは反対に、コンピュータの進歩に寄与して、どこまで強くなることができるか、開発者と協力しながらコンピュータの最高到達点を極めていこう、という考え方のプロがいたっていい。
 ただしわれわれトーナメントプロはそうはいかない。ライバルになったら、あとは戦うだけである。

本書の読みどころは他にもたくさんある。第2章にある対談も面白いし、第4章の渡辺竜王の考え方も、将棋だけでなく、いろいろな分野で役に立つだろう。私は、コンピュータは人間の延長物、ある意味、人間の一部なのだと思う。たとえ将来、ゲームがコンピュータvsコンピュータに見えたとしても、それは結局のところ、人間vs人間なのだと。まあ、意思を持ったロボットでも現れれば話は別だが、そもそも意思についての定義すら統一できていない現状で、それを考える必要はないだろう。