白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

族長の秋

ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

ノーベル賞作家、ガルシア=マルケスの長編小説だ。まったく改行のない文章。1ページの中にいくつもの場面やエピソードが次々とあらわれる。よほど熱意があるか、能力があるかでなければ、読み終えるのに骨が折れる。独裁者の死を描いているが、社会派の作品ではない。この世界の空気を小説で味わえということに尽きる。極めて映像的だが映画にしたらいったい何時間が必要になるのか想像もつかない。
見事な描写力にうっとりしていると、1日に数ページしか読み進まない。それでも、能力のない私が読み終えることができたのは、この本を課題にした読書会があったからだ。
マルケスは独裁者を悪くは描いていない。むしろ独裁者というものに共通する性向が面白く描かれている。独裁者になるのは、どういう人間なのか。そして、独裁者になると何が変わるのか。
マルケスはコロンビアの作家だが、元はジャーナリストで、国外でも活躍していた。この作品はフィクションだが、なぜか文庫の最初に<「族長の秋」作品舞台>という地図がある。この時代の中米の空気を読めということだろう。
極端な言い方かもしれないが、何かの教訓めいたものが得られるといった類いの本ではない。そうではなく、読んで味わうことを楽しむ本だ。真の文学好きのための文学。真の文学好きが何を意味するのかは置いておくとして、そういうイメージの本なのである。